「おい、ルード。後1時間だぞ、と」
「・・・・・・」
「あら、お兄さんどこかにお出かけ?」
「モチロン、これにだ、・・・・と」
「・・・・・・?あぁ、あの子かい。相変わらずの人気だねぇ」
「・・・・・・いつから」
「ん?」
「いつから・・・・・・」
「アイツがここに来たのはいつなんだ、と」
「そうだねぇ。半年くらい前かねぇ。あ、お客さん煙草は外で吸ってくださいな」
「あぁ、ワリィな」
「・・・・・・行くか」
「食器はそこに置いたままでいいよ。ありがとうね」
「うまかったぜ」
「・・・・・・」
先に出た細身の男を追いかけて、ルードは店を後にした。
辺りを見渡し、左の後ろに姿を見つける。
急いだように紫煙を吐き出す男の前に立つ。
「・・・・・・」
「落ち着けようとしているだけだぞ、と」
「・・・・・・」
「はぁ・・・・・・」
「1年振り・・・・・か?」
「・・・・・・そうだな」
【蜂蜜の館・中】
もう5年以上前。
タークス相手に少しも臆さず、その男は会話に入ってきた。
「タークスのルードさんだろ?」
開口一番そう言ったのを覚えている。
その時は、まだ髪も肩辺りまでしかなかったはずだ。
もちろん第一印象は当然良くなかった。
しかし、二言三言の後での笑顔。
それだけで第一印象はひっくり返った。
屈託なく笑う顔、声。
当然のように、その男の周りはいつも人だかりが出来ていた。
それはとても。
「羨ましいのか・・・・?と」
「・・・・・・レノ」
ここにも自分相手に臆さない者がいた。
レノは私の視線の先を追っていたらしい。
「・・・・・・」
「アンタがあんなに笑ってるのは・・・・・・変だぞ、と」
「笑って・・・・・・?」
「ザックスだろう、今度のソルジャー試験確実だそうだぞ、と」
「・・・・・・笑っていたか?」
「あぁ」
「・・・・・・そんなことはない。奴は笑ってなどいない」
「あぁ?」
「・・・・・・それよりも煙草を消せ。ここは」
「おっと。煙草厳禁だったか・・・と」
「・・・・・・」
「しかしもてもてだねぇ。あ、アンタ知ってるか?」
「・・・・・・?」
「アイツ、今度ミッドガルへ来るんだぜ、と」
「・・・・・・本社へか?」
「あぁ。まぁ、試験にパスすることが条件らしいが、と」
「・・・・・・」
一拍間をおいて。
「まぁ、来るんだろうぜ」
気づくと人だかりは消えていた。
彼の姿も消えていた。
先ほどまで彼がいた場所をもう一度仰ぎ見る。
そしてその場を後にした。
しばらくの間、私たちは世界を周っていた。
本社の要請があればどこへでも行った。
何でもした。
それが仕事だからだ。
神羅は今成長の時期にあった。
そのために邪魔者を排除することに余念がない。
言うなれば憂鬱な仕事が多かった。
仕事を終え、久々に本社へ戻る。
そこでまた出会った。
「あ、ルードさん丁度よかった」
弾かれたように振り返った。
後ろに立たれるとは思わなかった。
まだ戦闘時の興奮が冷めないというのに。
そしてその男の顔を見た。
その瞬間に、興味から脅威へと存在が転換するのを感じた。
「あれ。何怖い顔してるんですか」
「・・・・・・いや」
「俺たちは疲れてるんだぞ、と」
「あぁ、すみませんすぐ終わるんで」
「・・・・・・」
「アンタはもう休んでな、と。俺だけでいいだろ?」
「え?あー・・・。まぁ、いいですけど」
レノの気遣いを感じた。
そこまで自分は酷い顔をしていたか。
「・・・・・・大丈夫だ」
そういうと、男はまた笑った。
肩は何時の間にか腰辺りまで伸びていた。
「今度、何でしたっけ。ほら、この間逃げ出したサンプルの捕獲に行くんでしょ?」
「・・・・・・?」
「知らないぞ、と」
「アレ?そうなんですか?タークスの人と一緒に行けって言われてたんだけど」
「・・・・・・」
「ツォンさんに聞いてみな、と」
「ツォン?あ、あぁ。あの黒髪の長髪の人か」
「・・・・・・」
「古代種を・・・・・・」
「そうそう。それ。なーんだ。アンタ達と仕事が出来ると思って楽しみにしてたのにな」
髪を揺らしながらそう言った。
まるで子供のような口調だった。
「んじゃぁ今度一緒に仕事が出来るのを楽しみにしてるぜ」
「百年早いぞ、と」
台風が過ぎた後のようだった。
鼓動は変わらず早鐘を打っている。
足が震え手に汗を握っていた。
「どうしたんだ、と」
「アイツの・・・・・・顔」
「ん?顔がどうしたんだ、と」
相変わらずオンナにもてそうだったが。
相方はそう続ける。
そうではない。
そうではないのだ。
皆が慕うというあの男の笑み。
見たか。
あの顔を。
アレは親しさで覆い隠した顔だ。
何かを秘めた笑みだ。
近寄ってはいけない。
本能がそう告げる。
知ってはいけない。
そう告げる。
あの男の噂は絶えず流れていた。
古代種と恋仲になった男。
最近はそんな噂だった。
その頃私たちは、神羅兵を募っていた。
しかし、もう志願するものも少なくなった。
だから私たちの仕事は、素質のある者を連れてくることになっていた。
ある日。
ミッドガルの近くで、少年が倒れていた。
捨てておけと言ったレノを置き、その少年を抱き上げた。
意識が遠いところにあるらしい。
頬を2、3回叩いてみる。
少しうめいた。
「ここにいたら食われるぞ・・・・・・」
「食わしておけって」
「・・・・・・」
「ったくアンタは面倒見がいいな」
肩に担いだ。
育ち盛りの歳であろう少年は、まだ軽かった。
「コイツなんであんなところにいたんだろうな、と」
本社医務室。
点滴を受けている少年を見て、レノが言った。
「・・・・・・意識は」
「まだだぜ、と」
薄汚れた体は時折痙攣を起こしていた。
かなり疲労している様子だ。
「お。こいつニブルヘイムから来ているぜ、と」
「・・・・・・」
「へぇ。一人か」
「人の荷物を・・・・・・」
「あ、こいつソルジャー志願だぜ。願書持ってやがる」
「・・・・・・」
「アンタの勘はすげぇな、と」
「・・・・・・」
レノがそう呟いた。
その時、少年の目が開かれた。
辺りを見渡しているようだ。
そして足元にいる私たちを見つけると、驚いたように体を震わせた。
ゆっくりと上半身を起こし、腕についている針に気づく。
その後私たちを見た。
「・・・・・・ここ、は」
私たちは動けなくなった。
少年の瞳は蒼かった。
まだ魔晄を受けていないはずなのに、少年の目は美しいその色をしていた。
思わず魅入った。
声を出そうにも出せなかった。
やっと声を出せるようになったのは、あの男が来たからだった。
「こんにちはー。あ、消毒液もらえます?備え付けのなくなったんで」
気づくと少年は不思議そうな顔をして私を覗き込んでいた。
しかしすぐにあの声の主が気になったのか、薄い布で仕切られた向こうに視線を移す。
少年の視線が離れたことに寒気を覚えた。
(・・・・・・なんだ?)
自問してみるが答えがでない。
横を見やる。
レノはまだ少年の目を見つめていた。
「あぁ、そうなんですよ。次のソルジャー試験で1stを受けようと思っているんですけどね」
不意に少年が立ち上がり、そのまま薄い布の向こうへと去っていく。
「いって!何だよコレ!!」
「あ、あんたソルジャーなのか?俺ソルジャーになりたいんだ!俺も・・・!」
男が。
人に構われることに慣れているだろう男の、息を呑む音が聞こえた。
それはあの目に見つめられたからなのか。
「お・・・お前、名前は・・・・・・?」
「クラウド」
「クラウド・・・・・・。俺は、ザックス。来い。俺が案内してやろう」
薄い布の向こうで交わされた短い会話。
そして出て行く音がした。
それからというもの、レノは雑兵部屋へよく顔を出すようになった。
反対に、ザックスはあまり外へ行かなくなった。
自然と古代種との噂も消えた。
そして2年の月日が流れ、2人は英雄とともに姿を消した。
あの目にまた見つめられたい。
それがここに来た理由。
彼は青い服を着ていた。
昔自分も来ていたその服に懐かしさを感じるはずが。
今は興奮しか感じない。
伏せられた目元。
妙な気分になる。
視線で体のラインをたどっていると、彼は体を震わせた。
見ていたところに手をかざす。
見るなと言いたそうな顔をした。
目元を見る。
すると顔を背けた。
見られるのが嫌らしい。
ただただ見つめ続けて数分が経った頃、隣でレノが声を出した。
ようやく出した様な声だった。
それは彼に問い掛けるような声だった。
今まで疑問に思っていたことを問い掛ける声だった。
ためらいを多く含んだ声だった。
「何でココにいるんだ・・・、と」
死んだと思っていた。
そう言いたいのだろうが、レノはその言葉を飲み込んだ。
触れてはいけないことなのだと思ったのだろう。
少年から視線を外し、レノは自分の拳を握り締めた。
握られたその手をじっと見つめながら、開き、閉じた。
そしてまた少年を見る。
少年は。
こちらをじっと見ていた。
あの目で。
魔晄を受け、さらに深みが増したあの瞳で。
一瞬の後それは曇った。
しかし、私たちを駆り立てるには充分な一瞬でもあった。
レノが少年の項へと手を回した。
顔を近づけた拍子に帽子が落ちる。
少年は反射的に体を丸め、手を突っ張った。
その手を押さえ込んでキスをする。
今まで抑え込んでいた感情を込めてキスをする。
支配しようとキスをする。
少し経って、唇を離してレノは言う。
「逃げねぇのか・・・・」
少年は抵抗を見せなくなっていた。
曇った瞳でレノを見た後、目を閉じた。
私も耐え切れずに手を出した。
上着を下からたくし上げ、現れた肌に口付けた。
ふと、赤いものが目に入る。
上着を脱がせ、背中を見つめる私をレノは訝しがる。
細く浮き上がるその傷は、彼の背中に無数にあり、私は目が離せなかった。
「レノ・・・・」
「ん?」
正面にいた相方が、背中を覗き見た。
やはり絶句したようだ。
少年を抱きしめるように腕を回し、背筋を指でなぞった。
少年は身じろぎをする。
くすぐったそうに。
顔をレノの胸に埋め、その愛撫と言えなくも無い痛みを受け入れる。
時折漏れる声。
ピクリと震える足。
少年がココにいる理由がわかったような気がした。
少年を買う男たちの、自分等が持つ以外の、動機がわかったような気がした。
ベルトだろうか。
打たれた痕。
生々しく血を流したであろう痕。
レノが爪を立てた。
私が止める間も無かった。
声を噛み殺す少年の背中に、血が滲んだ。
私は思わず口付けた。
舐め上げると、口中に鉄の味が広がった。
しかしそれを甘いと感じた自分がいた。
気づくと、レノは少年の足を掲げ、ズボンを膝下まで脱がせていた。
全て脱がそうと私が制服に手をかけると、レノは私の腕を掴んだ。
「半端な方がやらしくていいだろ」
そう言ってニヤリと笑んだ。
少年の口に指を突っ込んでかき回し、口中を愛撫する。
少し乱暴なその行為にさえ、少年は反応しているようだ。
私は後ろから少年の首筋へとキスを落とす。
肩を上げ、くすぐったそうに少年は身をよじる。
「好きなんだなぁ、ソコ」
少年は顔を赤くした。
悪くない反応だ。
「でも、コッチのが好きなんだろ?」
レノは少年の口から指を引き抜いた。
半端にズリ降ろされたせいで開けない足の間へと手を伸ばす。
性器へ伸ばすと思われた手は、そのままそこを素通りし、少年の後ろまで伸びていく。
「さっきもやってたんだから、簡単だよな?と」
「っ、ぁ」
レノが何かしたらしい。
少年の体は弓の様にしなった。
私も少年の後ろへと手を伸ばした。
レノの手があった。
少年の体の中へと続いている。
「・・・2本?」
「3本だぞ、と」
キモチイイ。
レノがそう呟いた。
そして私の目を見てこう言った。
「アンタも指入れてみろ。中々いいぞ、と」
その言葉を受けて、私は指を中へ突き入れた。
少年は嬌声を上げて背を反らす。
その背中を受け止めながら、中の様子を伺った。
確かにレノの指が3本入っている。
しかも一点を集中的に圧迫しているようだった。
レノが力を込める度に、少年のそこは収縮し、喉からは嬌声が漏れていた。
空いている手を少年の前へと回す。
そこにもやはりレノの手があった。
根元をきつく握るその手には、少年の手が絡みついていた。
引き剥がそうと、指の先まで白く染め、必死で力を込めていた。
「・・・レノ」
離してやれと、私が訴える。
レノはやはり笑んだ。
笑んで、「イヤダネ」と答えた。
いつも通り、意地の悪い笑みだった。
言い出したのはレノだ。
もう慣れているだろうから、と。
指も、アンタのと俺のとで6本飲んでいるんだぜ、と。
そう言ったのは覚えている。
気づくと。
気づくと少年の体の中に、私はいた。
レノも、いた。
熱く絡む襞がたまらない。
私の性器を辿って落ちた液体は、潤滑に使ったジェルではない。
赤い、少年の体内を巡るもの。
少年は狂喜と狂気の間を彷徨うように、痛みと快楽を訴えていた。
レノが突き上げる。
少年が裂けることも構わずに突き上げる。
動きに耐え切れなくなって、自分の体に縋るように回された、少年の腕に口付けを落としながら。
私は背後から、少年の体を動かした。
中にいるレノと、少年が私を刺激する。
ただただ快楽に任せて少年を突き上げる。
絶頂を迎えるために、裂けた少年を突き上げる。
少年の嫌がるその声も
縋るようなその腕も
初めて彼と出会ったときの様な
彼に吸い込まれたあの感覚
私たちは忘れることを許されない。
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ともひと
まだ続きます。
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