子津 ver.

放課後。部活の時間。
猿野クンは今日は部室に監禁されてたっす。
どうも監督のお弁当を盗み食いしたことがばれたらしいっす。
部室から聞こえる呪文とも呼べなくも無いものが部員を直撃して、皆辛そうっす。
僕は慣れてしまったっす。
というか。
それどころじゃなかったっす。

昨日、犬飼君に、猿野クンとのキスシーン、見られてしまったっす。

今日部活で顔をあわせるのは正直かなりきついものがあったっす。
何でかって、そりゃ犬飼クンは猿野クンと付き合ってるから・・・す。
でもついに顔をあわせてしまったっす。
びくびくしたっす。
犬飼クンがいつも通り・・・。いつも通り、僕の前を通り過ぎようとして。
僕は思わず声をかけたっす。
「あの、犬飼クン!」
犬飼クンは猿野クンが他の人とキスしてて何も思わないんっすか?
そう言おうとして、犬飼クンと目が合った瞬間に、何も言えなくなったっす。
すると、犬飼クンは、
「とりあえず」
と前置きをして、僕に言ったっす。
僕は欲しかった答えを、言ってくれたっす。
「アイツが何も言わなかった」

「・・・・−それは、

 僕は本気でないと思ってるからっすかそれとも犬飼クンは猿野クンが別に他の人とキスしてても平気ってことっすかそれは僕にチャンスがあるってことっすかそれとも弁明なんか必要ないくらい猿野クンを信用してるってことっすか

−何でもないっす」
犬飼クンは部室のほうへ歩いて行ったっす。

僕は空を見たっす。空は、相変わらず−・・・







犬飼 ver.

部室のドアを叩いた。
「バカザル」
一瞬の間の後、中から
「何だコゲ犬」
と返ってきた。
いつも通りだった。
相変わらずバカなことを言っていた。
流した。
「今日は・・・良い天気だ」
「おぅ!そのお天道様の下に絶世の美男子を出したくない気持ちはわかる。でもだ。俺様はひ弱ではないからして・・・って。聞いてます?」
「・・・・聞いてる」
また沈黙が流れた。
「おい。バカザル。

 いつになったら昨日の弁明をするんだ俺が気にしていないとでも思ってるのかそれともお前は子津の方が好きなのか俺はもう不要なのか別れたいのか俺のことをなんとも思ってないのか俺が悩んでないとでも思ってるのか俺はいつまで−・・・

なんでもない」
中から悪態が返ってきた。
俺は部室から離れた。

空を見上げた。空は、いつのまにか−






猿野 ver.

犬飼が去った気配がした。
俺は部室の隅に寄ってって体育座りをした。
犬飼が何も言わなかった。それだけなのに。
「何だョ・・・

 何で昨日のこと何も聞かないわけ何でいつも通りなわけ少しはヤキモチとか焼かないわけそれともそこまで俺のこと考えてないわけもしかしたらあきれたから終わりにしようってそういうわけ好きな人が他の奴とキスしてたら嫌だって思わないわけ

もうやめよ・・・」
部室の窓から空を見上げた。四角く切った空は昨日のように−晴れていた。