「それ」を思うのをやめようと思えば直ぐにでもやめられたはずなんだ。 誰よりも「それ」に憂いている少年はボソリと呟いた。 まだ風が冷たい季節の深夜に、コンクリートの段差の上に腰かけた少年は 拾った小枝で地面をえぐる。 暗い筈なのに地面と建物がはっきりと見えるのは、 夜目が利いているせいではない。 多分、目を反らすなと、自己顕示欲が強い「それ」がそう見せているだけなのだ。 「良守、良守ってば」 「ん?」 自分に仕えるモノのその声で、ようやく地面から顔を上げた少年は、 目の前で仁王立ちする幼馴染の視線とぶつかった。 「私もう帰るけど」 白い服が少し泥で汚れいている。 自分は毎度のことだけど、彼女にしては珍しい。 ぼんやりそんなことを思っていると、白い尻尾にペチペチと頬を叩かれる。 「良守、アンタも帰んなよ。今日はもう来やしないよ」 「あ、あぁ。ちょっと考えててさ」 「ふーん…」 長い髪を揺らしながら、少年より少し年上の少女が呟いた。 「じゃぁ、先に帰るよ?」 「うん。気をつけて」 一瞬少女が押し黙る。 そしてくるりと背を向けた。 少年は歩き出した少女の姿を見送ることなく、 また地面をガリガリとひっかきだしていた。 校門をくぐった頃に、彼女のパートナーが顔を出す。 「いいのかいハニー、アレは絶対に何か考えている顔だぞ」 「いいのよ。アレは真面目に考えてる時の顔だもの」 「ふーん」 「なによ」 「いいや、これからヨッシーが何をするのかなぁと思ってね」 「あいつが何かするっていうの?」 「悪いことじゃないさ。まぁ、たまにやってることさね」 「…あ、そう。悪いことじゃないならいいわ」 「クールだねぇ」 彼女のパートナーはくるりと彼女の周りを回り ニヤリと笑うと自分の寝床へと帰っていった。 玄関前でその姿を見送った少女は、静かに溜め息をついてから扉を開けた。 「斑尾も帰っていいよ」 「…まぁ、アレだね」 「ん?」 「若いもんねぇ」 「…えっ?」 かなりドキリとしながら、感情が顔に出てしまう少年は口をパクパクさせる。 「一人で何か考えたいんだろう?悩みの多い年頃だもんねぇ」 ニヤニヤと、そんな笑みを残して白い犬は空へと飛び立つ。 少年はといえば、乾いた笑いを残してその姿を見送った。 そしてそばに誰もいないことを何度も確認すると、そっと袴の帯を緩めた。 「…なんでなんだろ」 例えば烏森が苛立っているときとか、微妙な機嫌がわかるようになったこととか 機嫌が悪いときに烏森に近づくと、何故か妙に下半身が熱くなったりとか。 最近、自分と烏森がよくわからない。 下半身の熱は、ここから一歩出ればすぐに収まるので 何事もなかったように出ればこんなことをこんなところでする必要はないのだけれど。 何故か出ることが出来ないこの不可思議さ。 「いや、俺は別に露出狂ってわけじゃ!」 数時間前にクラスメートが言っていたエロ本の中身を思い出し 慌てて頭を振った。 けれどすぐに、 「…立派に変態だよな」 と思いなおす。 下着ごと袴を脱いで、ぐしゃっと折って傍らに置いた。 コンクリートはまだ冷たくて、直に触れている尻がひんやりする。 上を脱ぐか考えて、めんどくさいという思いが勝り 臍の辺りまでたくし上げるだけにする。 そうすると既に反り返っている自分の性器が目に入る。 もう何度目になるのかもわからないけれど ここでする自慰は確かに家でするそれとは違って快感が強い。 出している、という感覚ではないのがおかしくて まるで誰かとしているような錯覚さえ覚えるのもまた煩わしい。 右手で脈打つ自信を掴むと、それだけでイきそうになって 慌てて手を離す。 何故かもう上がっている呼吸をおさめようと、深呼吸をすると 風に撫でられた股間が痙攣するのが伝わった。 「アッ、なっ」 その程度の刺激でまさかイくとは思わなくて 強い快感から何も対処が出来なかった少年の腹(及び服)に 精液は遠慮なく飛び散った。 冷たいコンクリートに背をつけて 足を開き精液を飛び散らかせただらしない格好で胸を上下させる少年は 風が内股を撫ぜる感触にビクリと身体を震わせた。 「ちょ、まだ無理だってば」 誰もいない空間に声を投げ、それでも足は閉じずに風の悪戯を受け入れる。 ザワリ、という風の感触だけで再び頭をもたげ始めた自分自身を 困った顔で見つめた少年は、ゆっくりと呟いた。 「何で…俺…」 どこか泣きそうでいて、誰かに問いかけたような呟きは 風に運ばれて霧散した。 Fin ---------*---------*---------*---------*--------- ともひと (*´д`*)ハァハァ 校庭でピー(今更自主規制 2008.7 ---------*---------*---------*---------*---------