金 「はい?」 彼がいきなりそう呟くからどうしたのかと思った。 金欠なのかと思ったから、自分の財布を覗いた。 「・・・何見てんの?」 「え?いや。俺今これだけしか持ち合わせがないんだけど・・・」 分厚い財布。 今日のデートのために持ってきたそれ。 それを彼は。 「・・・・・・使えねぇな」 「え?マジ?コレじゃ足りネェくらいのところ行くの?え?お泊り?」 お泊りならそれはそれで嬉しい。 「お前。一般人の金っていうのはなぁ」 そう言いながら彼は俺に小銭を見せた。 110円。 そこに乗っている。 財布の中には5円玉と1円玉が数枚。 「・・・・?」 彼の目の前には自販機。 「5円玉くらい使えるようにしろっての・・・・・・・」 「・・・・・」 「で、お前はないの?」 「え?」 「だから、金」 「えっと・・・・」 「マンサツなんてーツカエネェもんだすなよ?」 最高峰の札に「ツカエネェ」なんて笑っちゃうけど。 スパッと切り捨てるところがすっごいかっこいいよ? 俺はそう思うよ。 「ハイ」 チャラリ。 渡した10円玉に思いを込める。 アナタがかっこいいなぁとか。 やっぱり好きだなぁとか。 そういう思いを込めて渡す。 10円しか価値のない。 けれど今はとても重要な10円玉に想いを込める。 「おぉ。ありがとな」 アナタはそう言って受け取ったけど。 伝わってるのかな。 伝わってたらいいな。 俺をみてアナタが言う。 「好きだよ」 驚いて。 ほんと驚いて。 「ケッコー気に入ってるんだよ。コレ」 続いたその言葉にもう涙が込み上げて来た。 あー。 もう泣いちゃうよ? 「オイ。何泣いてんだお前。10円出すのがそんなに嫌なのかよ」 そうじゃないって。 そうじゃないってば。 こんなときまであなたはもう。 あぁ。また涙が出てきた。 「今度返すから」 「・・・・返さなくてイイ」 「あ?」 「返さなくてイイって」 返さないでよ。 頼むから。 そのまま受け取っておいて。 「・・・・・・わかったから。泣くなよ、もう」 今わかったっていった? 返さないでいてくれるんだ? ・・・・・・・・・・・。 「何だよ次は急に笑い出してよ。ワッカンネーやつ」 伝わらなくてもいいから持っていて。 伝わって欲しいけど。 無理ならせめて持っていて。 「まぁ。要は小さくていいから大事なものだよな」 「へ?」 「ん?」 ・・・・・・・案外届いているのかも。 ------------------------------------------- ともひと こどもっぽいですかね。 小さいけれど大事なものを。 2004.4 -------------------------------------------