口 毒々しい。 呟いた。 奴はその紅色に染められた唇を釣り上げた。 笑みの形を作ったそれの奥から、濃い桃色の内部が見える。 生き物のような明確な意志を持ち、それは紅色の唇を辿った。 突如わき起こる衝動。 背中に走った、産毛が総毛立つ何か。 性悪な猫のように目を細め、笑う奴を引っ張った。 「とりあえず、その口紅は似合わん」 腕の中で、肩をふるわせて奴は笑う。 紅いその色だけで惑わされる自分は大層フガイナイ。 「だから、落とせ」 「やーだ。気に入ってるんだもん」 クスクス。 紅い唇を釣り上げて笑う。 女らしくシナを作った、その言動。 ホントにこいつは女装が好きな変態だ。 「何で落とさなきゃいけないの?」 俺の腕の中から、見上げて奴は聞いてきた。 もう限界だ。 「馬鹿猿が…」 「やだぁ、冥きゅんてば。今は明美って呼んで」 「…ぶっころ」 「猿野くん、監督が呼んでたっすよ。 あ、また明美さんやってたっすね。 わわ、ちょっ、それはだめっす猿…明美さん! 発禁食らうっす!って、口紅を直すのは後にしてくださいっす! 監督に怒られるっすよ!」 すれ違い様、奴は子津の耳元で。 「やぁね、子津きゅんてば。女が口紅を直す時って、どういう時か知らないの?」 奴はそう言い残して出て行った。 「え?あ、寄り道しないでまっすぐ行くっすよ! …ふう。あれ?犬飼君、どうしたんっすか? 赤いっすよ?」 慌てながら手の甲で唇をこすると子津は。 「熱でもあるっすか?顔が赤いっす」 …俺はさらに赤くなっていたことだろう。 ------------------------------------------- ともひと 犬猿デス。 この後羊猿に突入とかそんなことはありません。 ・・・たぶん。 2004.6 -------------------------------------------