陰 しばらくして、十歩ほど先に、人がいることに気付いた。 青年だった。どこかうつろな目をして、空を見ていた。 灰色の雲を目で追いかけていた。 声をかけて見ようと思った。 かけてみた。 彼はゆっくりと視線を降ろした。 痛いのか、首の後ろの辺りに手を当てている。 そして降ろされた視線の先に、丁度自分がいた。 丁度空を見ようとした瞬間に、彼と視線がぶつかった。 一瞬にも満たない時間だった。 空を見上げて、太陽を覆い隠す、動かない雲をみた。 彼が空を見上げた気配がした。 ほんの少しして、視線を降ろしたとき、世界がとても眩しく見えた。 気付くと、自分にも、その周りにも陽が照っていた。 正面の彼を見る。 彼は陰に立っていた。 そして少年になっていた。 口を開けたまま空を見つめていた。 陰が・・・ 彼の足元を指差した。 彼が後ろを振り返り、少しした後、前を見た。 瞬きの後、家の近くの公園に立っていた。 見覚えのある公園は、昔よく遊んだとこだった。 横を見る。 友人達がそこにいた。 時が止まったようにそこにいた。 幼い友人達が、無邪気な顔をしてそこにいた。 見たことのある光景だな、と思った。 あの友人達の中に入ったら、戻るような気がした。 だから入った。 そして、自分以外の色々なものがゆっくりと動きだして、今ある意識が薄れていって、 ぷつんと途切れるのを感じた。 灰色の雲で覆われた日が来たら、今度は見つめないようにしよう。 自分の代わりにあの雲の下にいるアノヒトには悪いけれど。 最後にそんなことを思いながら、何度目かわからないやり直しを始めた。 ------------------------------------------- ともひと ずーっと続くんです。 灰色の空を見上げていると戻ってしまうのです。 空には要注意です。 2004.8 -------------------------------------------