影








「あちーっ」

兄さんが日影を探してキョロキョロし始めた。
太陽を背にしている間は僕の前を。
前にしているときは僕の後ろを。
兄さんは歩いていたけど。

僕の体がバーベキューができそうなくらい熱くなってしまったことと、太陽が真上に来て、
もう僕の影に入れなくなってしまったことが原因だと思う。

「ほら兄さん、あそこ涼しそうだよ」

僕はそう言って、小さなお店の前の日影を指した。
兄さんは間髪おかず「あそこはダメ」と返した。

「なんで?涼しそうなのに」


兄さんは僕の問いに答えないまま、またキョロキョロと見渡した。
そして木漏れ日が眩しそうな大きな木を見つけると、走って行った。

日影に入って、こちらを振り返って、僕に早く来いと手招きをした。

「さっきのところの方が、クーラーも効いてて涼しそうだったのに」

おいついた僕が言うと、兄さんは口をとがらせて言い返してきた。

「…あそこじゃ寝転がれないだろ」

僕にも座れと言わんばかりに、先に座り込んでいた兄さんが地面を叩いた。
大人しく従った僕の膝に、兄さんが上着を乗せた。

木を背もたれにした僕の足に、兄さんの頭が乗っている。

「お前とじゃなきゃ意味ねぇだろ」

って兄さんが急につぶやいた。

「何のこと?」

「…」

兄さんはそれきり黙ってしまった。
寝ちゃった、と思ったから、僕は陽がこぼれてくる頭上を見上げて、
ときたま肩にとまる鳥とじゃれていた。
視界の端に兄さんの目が見えたような気がして、自分の足を見た。
兄さんは目を開けていなかったから、僕の見間違いだったみたいだ。

「ねぇ、兄さん。僕の体が戻ったら、またこうして一緒に日向ぼっこしようね」

木漏れ日が兄さんの涙を照らしてくれなかったから、 兄さんが泣いていたことに、
僕はずっと気付かなかった。


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ともひと
 ほのぼのとナントナクカタオモイな感じです。
 どうでしょうか。(どうって・・・

2004.8
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