風

















風に揺すられて、目を覚ました。

思わずうたたねをしていた自分に気づいて、苦笑した。

よくこんなゲテモノが揃った校舎で無防備なことが出来たもんだ。

そして自嘲する。


(自分も似たようなもんだしな…)


校舎の隅で、数分後を思い描いて煙草を消した。








風に揺らされて、スカートを抑えた。

「ちょっと、アンタも隠しなさいって」

「え?何がぁ?」

天然の相手は疲れることこの上ない。


(あーあ。鼻血出しちゃってるよ…)


教室の真ん中で、机に座ってティッシュを出した。









風にまで煽られて、鼻血が出てきた。

緊張しているこの時に、トドメがこれじゃぁ情けない。

もらったティッシュを受け取って、陽の沈みかけた外を見た。


(もうすぐ夜になるんだな…)


教室の真ん中で、白く模様が浮き上がって来た自分の手を見てそう思う。









風がくるりと部屋を巻き、下から上へと触れていった。

「ちょっと、アンタも隠しなさいって」

「え?何がぁ?」

くすぐったくってそれどころじゃないんだってば。


(夜って風冷えるかなぁ…)


膝掛けを取るために自分の席へ移動する。








風に飛ばされそうになって、踏ん張った。

土を巻き上げてきたせいなのか、目に入ってしまったようで。

こすろうとして、我慢して。

涙が自然と流すのを待っていた。


(この瞬間にも夜が近づいてくるというのに…)

そびえ立つ校舎が今は見えず、緊張だけが先走る。










風に纏わりつかれて、身震いが止まらない。

もう藍色に染まった空が赤く燃えていた時に戻らないかと。

戻るわけも無いのにそう思う。

死んでもいいのか、と問うて見る。


(俺の炎で焼いたらもっと…)


考えを振り払い、階段脇で頭を掻いた。








風が頭を撫でて行き、気づいてゆっくり顔を上げた。

空を見上げて、暗いことを確認した後。

ゆっくりと下を見た。

足元の扉がゆっくりと開かれて。


(来た…)


これからを思いつつ、思う間も無い今を思いつつ。





























明日も風に気づきますように。

願いを込めた、時が来る。


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ともひと
 一人一人でかいてみました。
 誰が誰かわかると・・・いいなぁ。

 2004.8
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