終 そう遠くもない昔のお話。 私がまだ幼い頃の話。 少年が一人、花が満開の野原に座っていたんだ。 その少年は花を手折りながら、少しずつ少しずつ花の輪を編み上げていた。 一人でちょこちょこと作っていたんだけど、気づくともう一人少年がいた。 その少年は言ったんだ。 『ここは僕の野原だ。勝手をするな』 って。 そう言われて驚いた少年は、すぐにこう言った。 『じゃぁこれからは僕のものだ』 本当は、その野原は誰のものでもなかった。 だから、どちらかの少年のものになるかもしれない野原だった。 彼らは二人してしゃがみこんで、花の輪を作り始めた。 近くに花が見当たらなくなると、移動して、また手折り続けた。 しばらくして、片方の少年が、あと一折で完成させるところまで来た。 もう片方の少年はそれに気づいて、急いで彼に駆け寄った。 でね、叩き落したんだ。 もう少しで完成だった花の輪が地面に落ちて。 叩かれて赤くなった自分の手を見たり、地面に落ちた花を見たり。 その繰り返しだった。 しばらくして、叩かれた方の手で花を拾った少年は、叩き落とした少年の花を奪い取った。 『あ…!』 奪われた少年は、慌てて腕を伸ばす。 けれどもあっという間に。 ほんと、一瞬だったんだ。 花は引き千切られて。 少年は呆然と、千切られて地面にパラパラと落ちる花を見ていた。 『千切ることないじゃないか!』 『君だって叩いたじゃないか!』 千切るほうがひどいだの、叩くほうがひどいだの。 どうしようもないことを少年たちは言い争った。 『痛いのはすぐに消えるじゃないか!』 『心の痛みは取れないじゃないか!』 『自分で直せばいいじゃないか!』 『直すのが大変じゃないか!』 ずっとそんなことを言い争っていた。 やがて日が暮れて、夜になった。 少年たちは迎えに来た親と手を繋いで帰っていった。 次の日も同じことをするのだろうと思いながら。 おしまい。 「え?おしまいなの?その後どうなったの?」 「そうだよ。今のお話オチがないじゃないか」 「ね。気になるよね」 「僕は手をあげるヤツのほうがひどいと思う!」 「そうかなぁ。千切ったヤツのほうがひどくない?」 少年たちを前にして、彼は言う。 「手を取ればよかったんだよ…二人で、半分ずつ手を伸ばせばよかったんだ」 「何で!だってあっちが悪いんじゃん!」 「2人とも、幼かったから…それだけの勇気もなかった」 「僕だったらお父様に言いつけるなぁ」 彼はクスリと笑った。 自分の意見をぶつけ合う息子たちを見て、彼は笑った。 窓の外を見た。 彼は静かに目を閉じた。 ------------------------------------------- ともひと セリストに捧げまする。 2004.8 -------------------------------------------