はさみ










「ちぇんちぇ、このハサミ不良品なのよさ」

「ん?」

「こんな薄い紙も切れないのよさ」

「あぁ、私の部屋にあったのを使ったのか」

 彼は愛娘の手からハサミを受け取った。

 懐かしそうに眺めた後、ふっと微笑む。

 その表情を見ていた愛娘が怪訝な顔をする。

「何笑ってるのよさ」

「いや。見ててご覧、ピノコ」

 彼は左手にハサミを持つと、愛娘が握っていたお菓子の袋の端を切った。

「切れたのよさ!」

「これは左利きの人用のなんだ」

「ふーん。なんでちぇんちぇが持ってるのよさ」

「昔は左手の方が器用だったんだ」

「それってちっちゃいころのお話ち?」

「あぁ。本間先生に買ってもらったんだ」

 そう言うと彼は一瞬沈黙してから、愛娘にハサミを手渡した。

「ちゃんとしまっておくように」

「は〜い」

 封が切られたお菓子とハサミを受け取って、ドアの向こうへと去って行く。

 彼は自分の部屋の引き出しが閉められる音を聞いてから、
 ゆっくりとカルテを開いた。



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ともひと
2007.10
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