オムライス
ふわふわのオムライスを作れたことが無いらしい彼が、私に料理を聞いて来た。
確かにうちは料亭で、小さい頃から私も色々と料理を学んで来た。
しかしだ。
得意なのは和食であって、オムライスを上手く作ることが出来るかと問われたら、
否と答える。
それでも、彼があまりにも真摯に頼むから、仕方なく基本を教える。
普段から料理はしているらしい彼は、私が指示したことをスイスイとやって行く。
途中、次にやることを私に聞かぬまま先へ進もうとして、慌てて立ち止まる。
私はそれを見なかったことにして、指示を出す。
「よく掻き混ぜたか?」
「おう、もちろん。愛情込めてたっぷりと!」
「そうか。それなら…」
窓から差し込む光が暖かい。
そうまでして私と一緒にありたいというのなら、私も悪い気はしない。
むしろ。
でも、ただ。
「…何へのだ?」
「へ?」
「いや、何でもない」
何をわざわざ聞いているのか。
不思議でならない自分の考えを振り払って、私は冷蔵庫へと向き直る。
なんて無駄なことを言ったのだ。
「俺さ、美味くできたら好きな人に作ってやって食ってもらいたいって思ってるんだ」
「…意外と一途だな」
「意外とって、ちょっと酷くない」
笑いながら、それでも彼は冷やした飯を炒めていく。
「だってさ、好きな人の好みがオムライスなんだもん。頑張っちゃうよ、俺」
「へぇ…」
「…」
オムライスが好きな子か。
メルヘンチックな女の子なのだろうな。
きっとぬいぐるみとかが良く似合う子なんだろう。
…うん、こいつの横にそんな女の子が立つのならお似合いだ。
そういえば昔から和食ばかり食べていたせいか
小さい頃はオムライスに憧れていたな。
高校からの帰り道にこっそりとオムライスを食べに入った店がこいつのバイト先で、
いつも同じものしか注文しない俺の顔を覚えたこいつと…いつの間にか友人になって。
あれからもう何年の付き合いだろう。
「…な、なぁ、お前さ」
「ん?」
「もしかしてオムライス、そんな好きじゃなかった?」
「いや、好きだが?」
「あ…、そ」
さて、しばらくしてようやく気づいた私の頬と
彼が嬉しそうに出してきたふわふわのオムライスにかけられたケチャップと。
どちらの顔が赤かったろう。
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ともひと
2008.6
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