行列ができるわけでもなく、かといって客が10分と途絶えることもない豆腐屋から、そこの息子が出て来る。 豆腐を売りながら世間話をしている父親の横を、客に会釈をしつつ通り過ぎて、彼は小走りに大通りへ向かう。 離れたところから近づいてくる車の音を聞き分けた父親は、先日産まれた孫の話ばかりする話し相手に 「うちのは嫁どころか車とばかりとつるんでる」と愚痴を漏らした。 夏場は目がチカチカする。 そう漏らすと、笑いながら「そのうち慣れる」と啓介が言った。 助手席に座ってから、既に20分は経つ。 どこに行くとは言っていなかったので、どこに行くかはわからない。 そのうち着くだろうと気にしてもいない。 他愛もない会話をしながら、いつものように過ごすこの時がただ好きだと思った。 少しして、ふと沈黙が訪れた。 普段もよくあることなのでさして気にもしなかったが、啓介が何かを言い躊躇っているのを察して、 「何かありましたか」 と聞いた。 少しの間の後、何処か落ち着いて話せる所でもいいかと聞かれたので、応と答える。 3分後には、地階が駐車場でその上に部屋というより家が建っているようなものが複数並んだ・・・つまりはそういうところに車が収まった。 「え・・・ここって」 「なんもしねーよ。2人で話せるとことか・・・思いつかなかったんだよ」 啓介が車から降りて、脇にある階段を上る。 緊張しながらそれに続くと、上り切ったところにドアがあった。 鍵はかかっておらず、恐る恐る入った部屋は広いワンルームだった。 これ見よがしにおかれた大きなベッドを素通りして、テレビの前に置かれた二人掛けのソファに腰を下ろした啓介が手招きをする。 「突っ立ってないで来いよ」 「あ、はい」 「・・・言っとくけど、オレだってこんなところ来たのは初めてだからな」 「はぁ・・・」 「とりあえず座れよ。聞きたいこともあるしさ、話したいこともある」 「・・・」 無言で啓介の隣に腰を下ろす。 横目で啓介を見ると、肘を脚に乗せて、前屈みに何かを考えているようだった。 後ろのベッドが気になるが、今は振り返る勇気がない。 「今日夢見てさ」 「は?」 唐突なのはともかく、啓介が夢の話をしだしたので、少し拍子抜けがする。 「夢がどうしたんですか?」 「お前はオレといるのに、兄貴の名前を呼んでてさ」 「はぁ・・・?」 「飛び起きたらスゲエ汗で」 「・・・」 「オレさぁ、お前のこと本気で好きなんだなって思ったんだ」 「・・・!」 「でも、お前はさ、そうじゃないだろ?」 「好きは・・・好きですケド」 「例えばさ、キスしてぇだとか、・・・セックスしてぇだとか、思わねぇだろ?」 「えっ」 場所が場所だけに、思わず身構えた。 それを見て苦笑しながら、啓介が両手を上げて何もしねえよと返す。 「でも、だからさ。本気のオレといても楽しいか?オレはいつでもお前に触りたいって思ってるんだぜ」 「オレが傍にいたら苦しいってことですか?」 「違う・・・けど、違わない」 「・・・」 「無理しなくて、いいんだぜ」 「それを言うなら、啓介さんはオレと付き合ってて楽しいですか?前も言いましたけど、オレ付き合うっていうのよくわかりませんし、 もしかしたら恋愛っていうか・・・啓介さんが言う好きっていうのと同じ気持ちで誰かを好きになるかもしれませんよ。いいんですか?」 「・・・わかんねー。今は嫌われてないってだけでヨシとしてぇところだし」 「あの」 「うん?」 「それにオレ・・・この間しましたよね、キス」 「ああ・・・」 「したいと思ったことくらい、ありますよ。キス・・・くらいなら」 「は?」 「だからキスですよ」 「だから・・・って」 「オレ、この好きが何かわからないんです。啓介さんなんて守りたいとか思えないくらい強いですし、でもたぶん・・・イヤじゃないです」 「たぶんかよ」 「前したときは、イヤじゃなかったです」 「・・・」 啓介が手招きする。 たった30センチくらいの距離でそれもおかしいが、ソファに手を突いて上半身を啓介に傾かせた。 唇同士が軽く触れて、離れる。 相手を見上げると、唇を抑えて前を向いていた。 その顔が、 「赤いですよ」 「うるせ」 「・・・」 「・・・んだよ」 「何も言ってませんよ」 「じゃあ何か言えよ」 「横暴です」 「知らなかったか?」 「知ってました」 「言いやがったなコイツ」 「あはは」 「チッ。・・・どうすりゃいいんだよ」 「何がですか?」 「キスは良いってことだろ。その先をしたくなったらどうすりゃいいんだと思って」 「その先って・・・やり方知ってるんですか、啓介さん」 「やり方って言うなよ生々しいだろなんか」 「いやでも他に言い方ないでしょう?」 「そうだけどさ・・・。まぁ、手順は知ってるけど実際にやったことねぇから、わかんねーよ」 「え・・・そうなんですか?」 「なんだよ。オレはなぁ、男はお前にしか惚れたことねーの」 「惚れられたことならあると」 「さぁな?男で告って来た奴は今までいなかったぜ。兄貴はされてたけど」 「あぁ、涼介さんはそうでしょうね・・・。納得します」 「やっぱりお前もそう思うのか」 「そりゃあ」 はぁ、と啓介が溜息を吐く。 少し拗ねたような顔でそっぽを向くが、それさえもどことなく楽しそうだ。 「あの」 「ん?あぁ、そろそろ出るか?」 「いやそうじゃなくてその逆っていうか」 「逆・・・?」 「あの・・・試して見ませんか?」 「何を?」 「オレも自分がどこまで平気なのか知りたいっていうか・・・」 「・・・それはお前・・・オレと」 タバコを取り出そうとしていた啓介の手からぼとぼととタバコが床に落ちた。 拾い上げようと伸ばした腕を捕まれて、乱暴に引き寄せられる。 「お前・・・後悔しねぇだろうな」 「わかりません。だから嫌だと思ったら逃げますね」 「コノヤロ・・・」 引きづられるようにしてベッドに連れられる。 ベッドを前にどうしようかと突っ立っていると、隣で啓介ががバリと服を脱いでソファの背に投げ掛けた。 「うわ」 「うわじゃねえ。ダメなんだろ?ふざけやがって」 「ふざけてなんていません!いませんけど・・・電気くらい消してください」 「やだね。これしかチャンス無いかもしれないだろ」 「おっ、オレは見たくないです!」 「じゃあ目閉じてろよ」 「気になって開けちゃいますよ!」 「・・・じゃあ」 上半身裸の啓介がベッドに膝を乗せ、サイドデスクに置かれた何かを取って袋を破いた。 「これでもつけてろよ」 と渡されたのは黒いアイマスクで、躊躇いながらも受け取った。 とりあえずそれをベッドの端において服に手を掛ける。 「え、お前脱ぐの?」 「え?脱ぐもんじゃないんですか?」 「ちげーよ。オレが脱がすって言ってんの」 「・・・!」 そう聞いて、慌てて自分で服を脱いだ。 ジーパンに手を掛けて、躊躇する。 ふと見た啓介はシャツを脱いだだけでベッドに座り、頬杖をつきながらこちらを見ていた。 「・・・なぁ、藤原」 「何ですか」 「やっぱやめようぜ」 「なん・・・で?」 「だってさぁ・・・震えてるじゃんか」 「え?」 手を見る。 その手はぶるぶると面白いくらいに震えていた。 自覚した途端に、寒気が襲う。 心臓が何かにキュッと捕まれるような気さえした。 「・・・オレ」 「オレさ、お前がオレと寝てもいいって思ってくれただけでさ。今は十分だ」 「・・・」 いつの間にか立ち上がっていた啓介を見上げると、その距離が思っていたよりも大分近くて、 抱きつかれる-そう思った頃には二の腕が背中に回っていた。 他人と肌で触れ合う、初めての経験だった。 それは意外と温かくて、でかくて、その人がいつも吸っているタバコの匂いがした。 少し顎をあげて、啓介の肩に乗せる。 触れ合った胸から響く鼓動がどちらのものなのかわからなかった。 「ドライブして帰るって気分でもないな」 14時過ぎにはホテルに入っていたはずなので、いつの間にか1時間強が経過していたらしい。 陽が傾きかけた空を眺めながら、黄色いFDに乗り込んだ。 同じように運転席に乗った啓介がぼそりと呟いたのを拾って、 「そうですか?」 と拓海が答える。 啓介は少し苦笑いをした。 「んじゃ、帰るか」 「よろしくお願いします」 帰りの車の中は、静かだった。 啓介が操作する音が聞こえるのみだ。 FDが拓海の自宅近い大通りで止まった。 じゃあな、と素っ気なく言う啓介の横顔をちらと見る。 そのままいつまでも降りずに自分をちらちらと見る拓海に焦れたのは、他ならぬ啓介だった。 「なんだよ」 「あの・・・嫌だったら、言ってくださいね」 「だからなんだよ」 「ちょっと走りませんか」 「・・・」 無言のまま車が発車した。 珍しく行き先を告げる拓海の指示通りに走ると、先ほどとは違う、都会のブティックホテルに行き着いた。 唖然とした啓介が少し怒りながら隣を見ると、真っ赤な顔をした拓海が俯いたまま口を開く。 「ダメ・・・ですか」 「ダメとかそういうんじゃ・・・いや、もうオレ我慢出来ねぇよ?嫌だって言われても、無理だぜ」 アクセルを踏み込み、車はホテルの駐車場に吸い込まれた。 車から降りて、拓海の手を引いてずんずんと啓介が歩く。 初めてくぐるきらびやかな玄関と真新しい内装を見る間もなく、啓介がたくさんの部屋を映した掲示板から適当に選んだ部屋のボタンを押して、 フロントで鍵を受け取りエレベーターへ乗る。 3階のボタンを押して振り向いた啓介が、拓海を壁に押し付けて強引とも言えるキスをした。 上顎を嘗めあげられて鳥肌と快感がぞわりと拓海の背筋を這う。 すぐにエレベーターの扉は開き、啓介はまた無言で拓海の手を引き部屋の前へたどり着いた。 鍵を差し込み、回しながら扉を開ける。 拓海を押し入れてから啓介も中へ入った。 靴を脱いでいた拓海を引き寄せて再び唇を割る。 先ほど反応した上顎ばかりを乱暴に舌でつつき、引き寄せた腰に己の一物を押しあてた。 「まっ、け・・・さん!」 「もう待った無しって言ったはずだけど」 「そうじゃなくて・・・しゃ、シャワーに」 「わかった」 解放されたかと思いきや、ホッとする間もなく啓介が自らの服を脱ぎ投げ捨てた。 本日二度目だというのに、先ほどとは違い胸が高鳴った。 拓海も服を脱ぎ、思い切って下着ごととっぱらうと、啓介は既に浴室でシャワーに手を掛けていた。 今さら気付いたのだが浴室の壁は全てガラスで、玄関からも丸見えだった。 男二人でも余裕の浴槽と洗い場に、拓海は状況も忘れて感心する。 「藤原」 滑る浴室で腕を引っ張られ、拓海は啓介に倒れこんだ。 「あっ、危ないでしょう!?」 啓介に後ろから抱き締められ、頭上からは容赦なく湯が降り注ぐ。 後ろから啓介の左手が伸び、拓海のペニスを握った。 半勃ちのペニスは初めて他人に触れられた衝撃で一瞬弛緩するが、腰に当たる啓介のモノを意識した途端に、再び勃ち上がる。 「藤原、エロい」 後ろから耳元で囁かれ、拓海はハッとして自分にまとわり着く啓介の指を引き剥がそうと手を重ねた。 だが力で適うわけもなければ初めての快感にあらがえるわけもなく、その手は上下する啓介の手に重ねられただけだった。 「まっ、啓介さん、待ってくださ」 唐突に啓介が体とごと拓海から離れた。 キュッとシャワーを止めて、拓海を見てにやりと笑う。 「ベッド行こうぜ」 「・・・」 「歩けないなら抱いてやろうか」 「い、いりません!」 啓介の手を振り払い、前屈み且つ小股に拓海が歩く。 まったくシャワーを浴びた気がしないが、仕方がない。 綺麗に畳んで置かれているバスタオルを手に取り、顔をぬぐう。 簡単に体を拭こうとした横から啓介の手が伸び、置いてあったもうひとつのバスタオルをつかみ、拭かずに腰に巻き、 そのままベッド方面へと歩み寄ると小型の冷蔵庫の前でしゃがみこんだ。 びしょ濡れのまま歩いていった啓介を見ていた拓海は、ちゃんと拭くのも面倒に思えたので、 軽くぬぐうだけにとどめてタオルを腰に巻いた。 啓介がつけた水の足跡を辿りベッドへ向かう。 掛け布団を捲りのそのそと上がった時、背後からガシャリと音がして振り向いた。 啓介が何かのボトルを手にして立っている。 バスタオルを押し上げる股間に一瞬目が奪われるが、振り払いその後ろに視線を移す。 小型の冷蔵庫の蓋が開いていた。 開いていたが、中は10個ほどの小部屋に別れていてひとつひとつ透明なドアがついていた。 そのうちのひとつが開いている。 「足広げろよ、藤原」 「そんなこと出来るわけ・・・」 「じゃあ後ろ向けよ」 そう言われ腰を上げるが、すぐに向き直っておずおずと足を開いた。 「バックは嫌いか?」 「嫌いも何もしたことねぇし・・・」 「そうなのか」 「あんたの顔が見られる方がいいって・・・思って・・・」 大きな枕に背中を預け、小さく開いた足の間から真っ赤な顔でそう言い放つ拓海の足元から、啓介がベッドに上がり胡坐をかいた。 心なしかその顔も赤い。 「オレ今余裕ねーんだから、あんまかわいいこと言うな。ついでに見るな」 そういいながらボトルのキャップを開けて放り投げた。 よく見るとボトルには何とかローションと書いてある。 ぶじゅるり-そんな音を立てて液体は絞りだされた。 半分ほど手のひらに出して、残りはボトルごと再び放り投げる。 両手を擦り合わせてぐぢゅぐぢゅと温めたローションの付いた右手を、拓海のタオルを押しのけてペニスへと伸ばした。 ぬるりと、滑りが良すぎて根元から先端まであっという間に塗り広げられる。 その感触に、たったひと撫でだというのにすぐに瀬戸際に追い込まれ、拓海は啓介の右手首を両手で掴んで止めた。 その隙に啓介の左手が拓海の菊門へ伸び、やすやすと中指の侵入を許す。 「うわわわわ、なっ何すんだよ!」 「男同士はココ使うんだよ」 「無理!に決まってんだろ!」 「だから今解してる」 暴れた拍子にタオルがまくれて腰があらわになる。 ここぞとばかりに拓海の足の間に体を入れた啓介が、乾かないようにぐりぐりと左手のローションを拓海の菊門と周辺に擦り付けた。 きつい穴もローションの力を借りれば指2本を簡単に飲み込んだ。 「そっ、そんな簡単に入るモノなのか?」 「指1本くらいならローションつければ誰でも入るのが普通なんだとよ」 「でも今1本て感じじゃ・・・」 「わかんのか?」 「中はわからないケド、開かれてるのはわかりま・・・っ!」 話している途中で、啓介は両手を動かした。 萎えなかった拓海のペニスをすり上げるとともに3本目の指を挿入する。 飲み込んだ穴はローションの力で簡単に出入りを許すが、襞は消えてピンク色の熱い穴になった。 「痛い、です!」 「わりぃ、藤原」 「何、ですか、今さらっ」 啓介が両手を拓海から離す。 中を触っていた左指は外気を冷たく感じた。 投げ捨ててあったボトルを掴み、残りの半分のうちの半分を自身のペニスに垂らしながら扱き、 残りを拓海の穴にノズルの先端を突き入れて絞りだした。 「気持ちわるっ」 「わりぃもう無理」 「え?」 そういいながら啓介は拓海の両腿を裏から滑る手で押さえ、屹立した己のペニスを小さな隙間を開ける穴へとあてがった。 腰を進める啓介に拓海は身構える。 が、ローションでずるりと滑る上に緊張して固くなった菊門には思うように入らない。 啓介が右手を拓海の足から離そうとしたとき、拓海が上半身を起こして腕を伸ばし、啓介のペニスをそっと握った。 右手で自分の穴の場所を確認し、左手で滑らないよう穴へと先端をくっつける。 まさか拓海にそんなことをされるとは思っていなかった啓介は驚きつつも腰を進めた。 亀頭が埋まるが、まだほんの先端しか入った感覚がない。 啓介は腰を引き、押されてへこんだ尻を引き出し、襞の間にほんの少し埋まったペニスを確認する。 もう一度押すと襞は広がり、ぬめる唇となって鬼頭とともに内部へと押し込まれた。 再び腰を引くと、鬼頭を飲み込んだまま唇だけがぷるりと外へ出た。 中程まで進めるとまた赤い唇は内部へ潜り込み、少し引き出すとまた外へ出た。 もう平気だろうと拓海の足を大きく広げ一息に奥まで押し込むと、中の強烈な痙攣と入口の収縮と-拓海の押し殺した声がした。 危うく射精しそうになり眼をつぶりやり過ごした啓介の鼻に、覚えのある臭いがよぎる。 眼を開けると、拓海のペニスが回頭しており、先端から飛び出たのであろう精液が拓海の腹や胸に飛び散って、 当の本人は両手でシーツを握り締め真っ赤な顔で啓介を見上げていた。 「お前・・・入れただけでいったのか」 「ち、違う。その前にあんたが触ってた」 「でも今は触ってなかったろ?」 「しっ、知らねぇ!」 「バカ動くな!」 締め付けてくる唇の当たる根元に痛みを感じながら、啓介はゆっくりと律動を開始した。 腰を引けば吸い付いたように唇が追い掛けて穴が追ってくる。 打ち付ければ拓海のペニスの先から少しずつ精液が飛んだ。 「お前、イキっぱなしなのか?」 腰を止めて啓介が上から覗き込む。 拓海はかぶりを振った。 「出ちまう・・・だけでイッてね・・・っ!それより苦・・・し・・・」 そういえば前立腺なんてものがあって押すと射精するようなことが書いてあった。 そう思い出しながら、啓介は抽挿を深くする。 それにあわせてなのか拓海が右手を自分のペニスに伸ばしてにゅるにゅると扱きだす。 それはひどく扇情的で、啓介は実際に感じている快感とは別の快感が下半身に群がるのを感じた。 「お前、今すげえエロい」 「啓っすけさんっ、イッ・・・またイキそうで、すっ」 我慢しているのか、膝を合わせるような内股で拓海が懇願する。 余計にキツくなる入口に、啓介は限界を覚悟する。 「出すぞ藤原」 「はっ、イ・・・っ」 言ってから2秒後には、啓介は腰を打ち付けたまま拓海の中に精を放った。 目を閉じて快感が過ぎ去る数秒を待つ。 すぐに熱い体内に締め付けられていることがくすぐったくなり、引き抜いた。 「あっ、わり・・・中で出しちまった・・・」 「え・・・?中で出すとなんか悪いんですか?」 こちらもイッたばかりでけだるそうな-というよりは眠そうな拓海が、折ったままだった足を伸ばす。 と同時、呻いた。 「え・・・ちょっとどいてください!」 「おう」 慌ただしく洗面所に駆け込んだ拓海を見送ってから、啓介は一服しようと玄関から順に脱ぎ散らかした服を指先でつまみあげる。 普段入れているポケットに四角い膨らみが見当たらず、そういえば落としたことを思い出した。 諦めてその場にジーンズを落とし、ベッドに戻る。 乾き始めたローションが手に幕を貼ったような感触に変わり、それは少し不快だったが左指に体内の温度を思い出して、 啓介はまたむくりと情欲が頭をもたげるのを感じた。 十代じゃあるまいし、さすがにこれはないだろう。 そう思いながら宥めていると、拓海が出て来た。 腹を押さえて睨むように啓介を見ている。 「あんた・・・もう中で出すなよ絶対」 「ってことはまたしていいってこと?」 「・・・勝手に考えろ!」 再び真っ赤になった拓海がガラスの向こうの浴室に入って行く。 啓介はその後を追った。 「あ」 「一緒に入ろうぜ」 「それは嫌ですけどどうせ強引に入ってくるんでしょ?」 「よくわかってんじゃん」 「あの」 「ん?」 「この・・・えっとローション・・・?お湯で濡らしたら落ちるかと思ったのに逆にヌルヌルしちゃって落ちないんですけど、どうしたら落とせるんですか」 「あー」 啓介が拓海の向こう側に置かれているシャンプー周辺に目をやる。 3つのボトルの横に置かれた、薄っぺらい袋を見つけて指を差す。 「それ使えよ」 「なんすか、これ」 ビリッと破いて取り出した、片面黄色でもう片面が薄いクリーム色-反対側の黄色が透けて見えているだけで実際は白-をしたやや硬いそれは、 シャワーで濡らすと膨らんでスポンジになった。 「・・・すげ」 黄色と白の面で硬さが違うそのスポンジを、不思議そうに拓海が眺めた。 その隙にシャワーを取ろうと手を伸ばした啓介の手から、湿ってぬめりだしたローションによってシャワーが落ちる。 上を向いたシャワーヘッドから噴水の様に吹き上がる湯は2人に勢いよく降り掛かり、手を伸ばして拾おうにも顔面を容赦なく打たれ、 さらに滑る手では上手く掴めずに何度も落としながら、ようやく定位置に戻した後、2人は顔を見合わせて笑った。 「っていうかシャワー止めればよかったですね」 「あ。もっと先に気付けよなぁ」 「アハハハ」 その後、結局拓海は大きなバスタブに湯を入れながら体を洗った。 啓介はシャワーを壁にかけたまま手早く手を洗い、次に髪を洗う。 ふと横で湯に浸かっている拓海を見ると、膝を立てぼんやりとベッドを見ていた。 「・・・もっかいしてぇの?」 「え?」 「ベッド見てるから」 「え、あ、違います!というかもう無理です!」 「あそ」 「・・・」 だだっ広いせいでなかなか湯がたまらないのか、腰骨にようやく届くかどうかの湯の中で拓海は足を延ばした。 足の裏がバシャリと湯を蹴る。 「オレも入っていい?」 「あ、どうぞ」 拓海が奥へと詰める。 その隣に、但し正面に啓介は腰を下ろした。 拓海の膝が再び立てられる。 「伸ばしてていいのに」 「やです」 「どういう意味だよ」 「恥ずかしいからです。ずっとこっち見てんだもん・・・」 「仕方ねぇだろ」 「・・・」 「・・・」 「・・・」 「なぁ」 「はい?」 「大丈夫か?まぁその・・・色々」 「腹はもう落ち着いてますけど、ケツは今頃になって痛いです」 「マジか。切れたりとかはしてねぇと思うんだけど・・・」 「それは、してないですけど・・・なんか熱持った感じします」 「もうちょっと慣らしたほうが良かったんだろうけどさ。・・・悪ィな」 「大丈夫です」 「はぁ・・・。くそ」 「?」 「もっと余裕のあるセックスするつもりだったのにな」 「余裕ですか」 「なんか十代のガキみてえながっついた入れて出すだけのセックスしちまってホント・・・」 寄りかかっていた啓介が突然身を起こして拓海の顔を覗き込む。 思わず背を反らせた拓海を追って、唇を合わせた。 すぐに離して、 「リベンジすっからな」 と言い置いて先ほどの位置へ戻った。 風呂の中の湯が激しく揺れる。 視線を伏せて口元を手の甲で隠した拓海が小さく頷いたのを、啓介は見逃さなかった。 →NEXT / RETURN to iniD-TOP