麗かな午後。
 木漏れ日の差す中庭。
 暖かな風。
 昼休み。
 彼女から差し入れられた可愛いお弁当。
 美味。

 そんな俺の「和やかタイム」に現れた奴。

 光を反射して煌く銀髪。
 太陽よりも眩しい笑顔。
 貌。
 身体。
 鳥の囀りさえもかすむ声。

 爆弾発言。

「今日さ、君の家に泊めて欲しいんだ」


































「・・・はい?」







































 そんな間抜けな返事しか出来なかった俺を
 誰が責めることが出来ようか。

 我が大学一の秀才。美貌。スタイルの持ち主。
 名前。銀星。ぎんせい。
 (なんて名前だ)

 全く俺と接点がない有名人。
 強いて言えば受けてる講義が多少被っているくらい。

 見たこと。
 ある。

 挨拶したこと。
 数えるくらい。

 会話したこと。
 ナシ。

 こんなことを言われる心当たり。
 ナシ。

 やはりおかしい。コイツは誰かと俺を間違えているんじゃないか。
 いや待て、俺が自意識過剰なだけで、もしかしたらすぐ後ろにいる別の奴に
 言っているのかもしれない。

「僕は君に言ったんだ。高良君」

「うお」

 タカラ、と名前を呼ばれて心臓が飛び跳ねた。
 美人に名前を呼ばれた奴は皆こうなるのか?
 なんてやな奴なんだ。

「・・・どうしたの?」

「えいやいきなり何言うんだと彼女の弁当が食いたくて今日天気がいいよな」

「・・・」

 奴はきょとんとした顔をした。
 俺はといえば、箸を持った右手で頭を抱えるしかなかった。 
 言いたいことを考える余裕さえなくて、とりあえず返事をしなきゃとか
 会話をしなきゃっていうことばかりで脳みそぐるぐるさせて
 思わず変なことを言っちまった。

 俺はアレだ。
 美人が苦手だ。
 相手を緊張させることしかできない顔を持った奴なんて
 この世からいなくなっちまえばいいと思う。
 俺の彼女くらいの、素朴な可愛い子ばかりの世界になったら
 どんなに俺にとって住みよい世界か。

「高良君、落ちちゃうよ」

 弁当を持った左手の甲が不意に温かくなって、俺は固くなった。
 白い手が俺の手を支えて、零れ落ちそうだった弁当の角度を調整する。



 視界に入る、芝生。 
 可愛い彼女の手作り弁当。
 俺の胡坐をかいた両足。
 弁当を持った左手。
 に、被さる白い手。



 しばらく硬直していよう。
 そうしよう。
 それがきっと身の為だ。

 そして始まった俺の沈黙攻撃。
 俺の前にしゃがみ込む奴。
 俺の目を覗き込む奴。
 銀色の奴。
 白い肌。

 あぁ神様。何で俺はこんな奴に吸い込まれそうになるのでしょうか。






































 そして動けない俺の目の前で、奴が言った。

「ごめん、急に変なこといって・・・。忘れて」

 少し悲しそうな顔をして立ち上がる。
 でもすぐに雑誌で見慣れた笑顔になった。

「じゃぁ。ご飯中に邪魔してごめんね」

 そう言ったかと思えば、手を振ってすぐに背を向けた。
 俺は呆然とその後姿を見ていた。













































 麗かな午後。
 木漏れ日の差す中庭。
 暖かな風。
 昼休み。
 彼女から差し入れられた可愛いお弁当。
 美味。

 そんな俺の「和やかタイム」に現れた奴。

 風に靡いて煌く銀髪。
 彼女よりも眩しい笑顔。
 頭をぐるぐるさせている間に消えた貌。
 遠くなる身体。
 初めて俺に向けられた声。

 何て言った?
 泊めてくれ?
 俺の家に?

























































「おい!」

 気づいたら立ち上がって、

「来いよ!」

 叫んで、

「俺今日ヒマだから!」

 彼女との約束を破って、

「来いよ!」

 彼女の弁当を地面にボトボトさせて。

 振り返る奴の驚いた顔を見て、

 そのすぐ後には、俺にだけ向けられた

 大輪が咲くような笑顔。



「ありがとう」



 今日、俺の人生が変わった。