陽

















灰色に染まった雲が、凄い早さで頭上を通過して行った。
ときたま覗く太陽の光が眩しかった。
俺は口を開けたまま、何となく見ていた。


不意に呼ばれた様な気がして、首を元に戻した。
ずっと見上げていたせいで、首の後ろの筋が痛い。
さすり、温めながら前を見た。




ぽつん と

少年が立っていた。





少年が立っているその場所は丁度翳っていて、暗かった。
俺を、少年が見ていた。





目が合った。


逸らされた。






少年は空を見ていた。
自分と太陽の間にある雲を眺めていた。
俺はその視線を追った。



頭上の雲たちは、相も変わらず凄い早さで通り過ぎていた。
灰色の雲が、灰色の雲を追い越していた。
とても遠いところにある雲が、遠いところにある雲を追い越して行った。
遠いところにある雲は、近いところにある雲を追い越して行った。
そしてときたま眩しかった。




少しして、動かない雲に気づいた。




とても遠いところにある雲より、さらに遠くに、いた。
小さい雲がポツンとあった。
しばらく見ていたが、やっぱり動かなかった。



薄暗い空に雲が流れる。

一つだけ流れないが、後は全部流れていた。



少年に視線を戻すと、少年は腕を上げていた。
指を一本伸ばして、後は握りこんでいた。
伸ばされた人差し指は俺に向けられていた。



俺は後ろを振り返った。
日陰になったり日向になったりで、地面は忙しない。
誰もいなかったし、何も無かったので、また前を見た。




もう少年は居なかった。




少年の居た場所には光が当たっていた。
ときたま影になった。




少年と見上げた空をまた見上げた。
やはりものすごい早さで雲が流れて行った。
今度は眩しくならなかった。
ぽつんとあった雲が、俺と太陽の間にいた。



視線を戻した。



痛かったので、首の後ろをさすって、温めた。
何となく痛みが緩和されたような気がした。



















すぐに、今度は俺が声を掛ける番なんだな、と気づいた。
また誰かがこの空を見上げるまで、ここに居なきゃな、と思った。




自分に当たらない陽の光を眺めながら、ただそれだけ思った。




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ともひと
 えーっと。
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2004.8

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